学校
コミュニティ・スクールは地域の宝
エコガラス安全合わせガラス仕様で明るく安全に
- 立地
- 鳥取県日野町
- 建築形態
- RC造(増改築)
- 設計
- 株式会社桑本建築設計事務所
- ガラス施工
- 鳥取福間商事株式会社
- 施工
- 美保テクノス・リンクス・大松建設
特定建設工事共同企業体
- 工期
- 2022年4月~12月
鳥取県 日野町立日野学園
住民が積極的に学校運営に参加・参画する“コミュニティ・スクール”が増えてきた。校舎は児童生徒の学びだけでなく、地域の大人が積極的に関わり子どもと共に活動する場になりつつある。多様な人々が出入りする環境の安全を保ち、同時にオフィスビル並みの快適さも付加していく…新しい学校のあり方を、エコガラス安全合わせガラス仕様の窓が支えていた。
1 小さなまちの全小中学生が集まる公立義務教育学校
日野町は鳥取県西南部に位置しています。古くから“たたら製鉄”で栄え、江戸時代初期は黒坂地区に城が築かれ城下町として整備されました。また根雨地区には出雲街道の宿場『根雨(ねう)宿』があり、交通の要衝として賑わいました。そんな豊かな歴史を持つまちです。
町立日野学園を訪ねました。今年度は109名の児童生徒が学ぶ小中一貫の義務教育学校で、一級河川・日野川沿いの豊かな緑に囲まれています。
2023年春、町内2小学校と1中学校を閉校として新たに開校しました。
町内の小中学生が一堂に会するこの学校は、コミュニティ・スクールとして多くの住民が関わっています。「かつては地域の人たちと関わる中でも子どもたちは育っていました」と話すのは砂流誠吾校長。社会に出て生きる力を大人から学んでほしい、と続けました。
2 子どもやボールのぶつかり、災害時の飛来物に強い窓
校舎は旧根雨小学校の校舎に増改築を施したものです。義務教育学校開校による教室数増に対応し、教室棟と、図書館やホールのある昇降口棟は新築され、高い環境性能が付加されました。
安全合わせガラスとエコガラスを組み合わせて防犯・安全・断熱力を高めた窓ガラスも、その一環です。教室棟の室内と廊下、昇降口、図書館の開口部に使われています。
安全合わせガラスは2枚の板ガラスの間に透明な合成樹脂の中間膜がはさみこまれ、外から何かぶつかっても割れにくく貫通しません。万一破損しても破片がほとんど飛び散らないガラスです。
学校建築においては、校庭からボールが飛んできたり廊下や教室で子どもたちが衝突する可能性がある中で、窓周辺での怪我や事故の軽減が主な役割に。
さらに地域の指定避難所なども、安全合わせガラスの仕事場に想定されます。
例えば台風や豪雨災害時は強風で飛来物が多くなり、飛んできた瓦や看板でガラスが壊される不安も増します。大勢が避難している体育館の窓ガラスが破れれば、危険なのはもちろん、雨風が吹き込んで避難どころではなくなってしまいます。
非常時に安全安心を確保したい空間で、もっとも活きるガラスといえるでしょう。
3 多くの人が出入りするから… コミュニティ・スクールの防犯
防犯面でも安全合わせガラスは力を発揮します。
地域の小中学校は住民にとって身近な存在である反面、いわゆる不審者の侵入にどう対応するかに頭を悩ませてきました。もとより日野学園はコミュニティ・スクールで、外部との関わりが深い存在です。
音田さんは「地域にひらかれ、大人にとっての学園でもあります。だから夢のある校舎にしたかった。しかしそこには危険もあります。フェンスもなく不特定多数が出入りする場で、いかに安全を確保していけばいいのか」
学園は地域学校協働活動が盛んで、日頃からまちの歴史や農作業、地域の生活文化などを住民が“ゲストティーチャー”となって教えています。図書館活動にも熱心で、学年を問わない『読み聞かせ』を常時行っていますが、ここでも地域住民がボランティアとして参加しているのです。
4 「学校は暑くて寒いもの」古い考え方を打破する
教室棟・図書館・昇降口に採用された安全合わせガラスの窓は、エコガラスとの組み合わせで高い断熱力も備えています。校舎内はエアコンで空調し、少ないエネルギーで夏涼しく冬暖かい快適な環境が実現されました。
砂流さんいわく「電気代のことは気にはなりますが、やはり児童生徒が一番です」
この国の学校施設の温熱環境改善は長い間、後回しにされてきました。耐震改修はしてもエアコンや断熱ガラスの導入は見送られ、窓開けやストーブなど昔ながらのやり方が続けられてきたのです。
現教育長の安達才智さんは「今の夏は昔より暑い。その中で子どもたちが元気に活動するためにどうすればいいかを考えました」
「旧根雨小学校にもエアコンはありましたが、校舎の熱効率は悪かったですね」とも話します。学校建築は開口部が多く、一般的なシングルガラスの窓ではいくら空調しても冷気や暖気が外に逃げやすいのです。
そこまで考慮しての、エコガラス導入でした。
岡田さんと協働して学園の計画・設計を担当した三好達也課長補佐は、当初は予算のこともあってガラスの機能まで考えられなかった、と振り返ります。
「そんなとき、音田さんから『ひらかれた学校として安全に明るくするため、防犯性能のあるガラスが必須』とのお話があり、設計の岡田さんに相談。そこで安全合わせガラスとエコガラスの話が出てきたのです」
このエピソードには、少子高齢時代の現在、小規模自治体が運営する“コミュニティの核としての学校”に求められる姿の一端が、垣間見えるようです。
5 安全で明るく快適な校舎づくりに欠かせない窓があった
「学校を“自分の家”として考えたら、絶対に外せないものがあると思います」音田さんの言葉です。
子どもたちが一定期間勉強するだけではない、学校は地域みんなの場所。そのためには従来の考え方を改めて環境を整えるべき…そんな想いが透けて見えた気がしました。
さらに「これからの学校づくりはコストから考えずにマックスから考え、そこからいかに下げていくかが大事では」と音田さん。安達さんも「進歩する科学や技術について、常に情報を集めていく必要があります」とうなずきました。
ここ数十年で地球の環境は大きく変化しています。温暖化防止が喫緊の課題であるとともに、学校を含む建物の計画・設計においては、現状と未来を見据えた深い思考が求められるのは自明でしょう。
象徴的な場所が教室棟にありました。階段下スペースの、天井まで届く掃き出し窓です。
廊下のつきあたりに切られたこの大開口を『まちはよく考えて学校をつくった』ことを伝えられる例、と砂流さん。
「ここをこれだけ明るく広々とするのは、このガラスにしかできませんよね。でも、そう聞かなければ子どもたちにも先生方にもわかりません。そういうこともきちんと伝えていく必要があると思います」
教室に沿ってまっすぐ延びるこの廊下の長さは40m以上。そして学校の廊下は休み時間を過ごしたり教室移動をしたりと、子どもたちがもっともアクティブになる場所です。
つきあたりにあるガラス開口にどんな性能が求められるかは、いうまでもないでしょう。
取材中、休み時間ごとに廊下は子どもたちの元気な声と駆け回らずにいられないエネルギーがあふれ、その生命力は感動的ですらありました。
安全合わせガラスは、この大切なものを受けとめ守るために欠かせない存在として選ばれたのだと、子どもたちと先生だけでなく、多くの人に伝えたいと思いました。
- 取材協力
- 鳥取福間商事株式会社
- 取材日
- 2024年6月27、28日
- 取材・文
- 二階さちえ
- 撮影
- 小田切 淳
- イラスト
- 中川展代